シーズン1 第9回 百武兼行
2016年11月9日放送
マスター:やぁ、富田さん、またいらっしゃいましたね。
富田さん:
こんばんは~・・・って、マスター!? どうしたんですか、その格好!?
黒いワンピースに、真っ赤な大きなリボン、ほうきまで持っちゃって・・・。
もうハロウィンは終わりましたよ。
マスター:
ああこれですか?県立美術館で開かれている「近藤喜文(こんどうよしふみ)展」を観てきたんですよ。(※現在は終了)
いやぁやっぱり、ジブリの作品はいいですね~。
富田さん:ジブリもいいですけど、県立美術館に行ったならぜひ「OKADA-ROOM」も観ないと!
マスター:「OKADA」・・・ああ、確か佐賀出身の洋画家ですよね。
富田さん:
そうです。岡田三郎助のことですね。
佐賀出身でもっとも有名な画家と言っていいと思いますけど。
戦前には第1回の文化勲章まで受章した日本洋画界の巨匠という人物です。
県立美術館の「OKADA-ROOM」では、その素晴らしい作品を間近で鑑賞することができるんですよ。
そして、佐賀の美術界を語る上でもう一人、どうしても外せない人物がいるんですよ。
マスター:お!来ましたね?
富田さん:
それが、百武兼行(ひゃくたけかねゆき)です。
百武は、確かに佐賀出身の洋画家の中で知名度的には、岡田に次いで2位か3位ぐらいですけども、同じ佐賀出身の近代の洋画家の代表格として知られる人物です。
年齢は、実は岡田より30歳近くも先輩なんですね。岡田の代表作に「裸婦」という大きな作品があるんですけど、西洋画で女性のヌードを描いた最初の日本人画家2人のうち1人がこの百武なんです。
彼は全国的にみても、最も早い明治のごく初期にヨーロッパの本場で西洋画を学んだ数少ない人物の一人なんですよね。
マスター:明治初期に、本場・ヨーロッパなんて、よく行けましたね~。
富田さん:
そうなんですよ。特別な環境にあったんです。その理由が鍋島家にあるんですね。10代藩主・鍋島直正公の跡を継いだ11代直大(なおひろ)公は、明治4年にイギリスに留学するために、岩倉使節団とともに横浜を出航します。その時に、実は百武も直大公の随行員として一緒に海外に渡っているんですね。
マスター:なるほど。
富田さん:
イギリスを軸に各国を遊歴した直大公と行動を共にしながら、明治6年にはウィーンであの佐野常民とも再会を果たしているんです。「博覧会男」の佐野は、 この時ちょうどウィーン万博のため現地入りしていたんですね。ところが翌年、江藤新平が亡くなる佐賀の乱が起きたため、直大公とともに緊急帰国します。しかし、帰国した時にはすでに乱が終結していたため、再び直大公とヨーロッパに共に渡るんです。
今回は直大公のみならず、そのご夫人も、西洋流の女性のあり方やマナー、嗜みなどを身につけるようにという、明治天皇直々の命を受けられて、直大公とご夫人、百武たちは再びイギリスに渡ることになるんですね。
夫人は、英語や西洋の手芸などを学ぶ中で西洋画も学びます。
その時、ご夫人が初めて絵筆を握るのにお一人ではちょっと…ということで、そのお相手役に選ばれたのが百武だったんです。これが洋画家・百武兼行のスタートラインになったんですね。
マスター:じゃ、百武にとって、絵画はなりゆきで始めたみたいなものですよね。
富田さん:
スタートはそういうことです。でも鍋島夫妻が帰国した後も、夫妻の配慮によって百武はパリに残って洋画修業に励むことができたんです。パリ美術学校の教授でアカデミズムの巨匠に弟子入りして、ここで画家としての才能が開花。やがて帰国すると、 今度は仕えていた直大公がイタリア公使としてローマへ赴任することとなり、百武も三度(みたび)お供することになるんです。
しかし、今度は個人的な付き人としてではなく、政府の書記官という公務を帯びての随行だったので多忙な日々をローマで送ることになるんですね。それでも、毎朝出勤前に少しずつキャンバスに向き合う時間をつくるなど、寸暇を惜しんで絵画の制作を進めて、わずか2年足らずで150号クラスの大作を何点も描き上げているんですね。
しかし、百武は、帰国後して間もなく、42歳の若さで病に倒れてしまうんですね。
マスター:一気に駆け抜けた人生だったんですね。「虎は死して皮を残す」と言いますが・・・。
富田さん:
東京の永田町にあった鍋島邸内には、百武の遺作が壁に飾ってありました。それを見たある少年が触発されて、やがて画家の道を志します。それが、岡田三郎助なんです。岡田は自分の回顧録の中で「郷土の先輩、百武の作品に大きな影響を受けた」と記しているんですね。
百武は若死にしたために、弟子に直接教えたりなどの影響は残せなかったんですけれども、こういう形で間接的に影響を受けた一世代後の岡田や高木背水、それから、久米邦武の子で洋画家の久米桂一郎といった多くの優秀な洋画家たちが佐賀から輩出されることに繋がっていくんですね。
マスター:百武なくして、いまの佐賀の洋画界はありえなかった・・・というとこですか?
富田さん:
そう!マスターも、魔女のコスプレもいいけど、もう一度県立美術館に行ってみたら?
じゃあ、ご馳走様でした!
マスター:
ありがとうございました。
う~ん、今すぐ行きたいんですが・・・この格好のままだと、まず受付で止められちゃいそうですね~。