シーズン2 第1回 押し返し候ても相願い候よう
2017年1月11日放送
富田さん:やぁ、お久しぶり!マスター!お店の名前がすっかり変わってしまっているから、通り過ぎるところでしたよ。
マスター:あぁ、富田さん。もう来てくれないかと思いましたよ。
富田さん:
そんなことありませんよ!それより、さっきからマスター、花びらを一枚一枚ちぎって・・・。
まさか!?「恋占い」?
マスター:
あはは…いやぁ、お恥ずかしい。去年のクリスマスに偶然出会ったヒトに一目ぼれしてしまって。で、告白すべきかどうか、花占いをやっていたんです。
富田さん:いつも貪欲なマスターらしくないですね!
マスター:あははは、お恥ずかしい。
富田さん:そうだ!幕末・日本のSAGAを代表する人物、10代佐賀藩主・鍋島直正公のこんな言葉を知っていますか?
マスター:聞きたいですねぇ。
富田さん:「押し返し候ても相願い候よう」
マスター:全く入ってこないですねぇ…。
富田さん:じゃあ、そんなマスターのために説明しましょう。
マスター:あぁ~、ありがとうございます。
富田さん:話は江戸時代、幕末、佐賀藩は西洋の船が唯一来航する長崎の港の警備を担ってました。
マスター:ええ。
富田さん:
大型の外国船の来航に備えて、海防を強化するため、佐賀藩は藩の単独事業として西洋国並みの大型の大砲を造ったり、長崎に新しい砲台も築くんですね。
マスター:ええ。
富田さん:その大砲をつくる工場が反射炉と呼ばれる施設ですね。
マスター:ええ。
富田さん:
この時、直正公は、どうしても蒸気船が必要だと考えてました。
なぜかと言うと、陸地につくった砲台というのは、射程距離の範囲を超える外国船に対しては砲撃を加えることができませんよね。
マスター:う~ん。
富田さん:もし外国船が長崎港で勝手な上陸や、海や陸地の測量など、不法な働きをして沖の方に逃げて行ったら、その船を追跡しないといけないからなんです。
マスター:なるほど。私の想う人も、射程距離から外れているのかもしれないなぁ・・・。
富田さん:マスター、じっとしているだけではダメですよ。思いが届くまで距離を縮めなきゃいけませんよ。
マスター:う~ん。
富田さん:直正公も、逃げていく敵に対して、どうしても蒸気船が必要だと考えたんですから!
マスター:う~ん。
富田さん:
そして、佐賀藩最初の蒸気船を、直正公はオランダから購入します。
ただ店先に並んでいるような商品ではありませんから、オランダ側との交渉や、幕府に対しては事前の購入に対する許可申請が必要になるなど、大変な買い物だったんですね。この時直正公が、徳永傳之助という側近に宛てた直筆の指示書にはこうあります。
「先日私は長崎でオランダ人と面会し、来年、佐賀藩のために蒸気船を長崎に持って来て欲しいとの約束を取り付けようとしたところ、思いのほかすぐにいい返事をもらえたぞ。実はすでに幕府が一艘持っている蒸気船よりも、もっと性能の良いヤツを持ってきてあげますよ、と即答だったぞ」と。
マスター:はい。
富田さん:
一方で直正公は、幕府に提出する申請書についてはこう言ってます。
「万一、願書御差返しに相成り候共、押し返し候ても相願い候よう取り計いたく候」
つまり、幕府が受理してくれなかったとしても、押し返してでもゴリ押ししなさいという指示を出しているんですね。
マスター:ゴリ押しか~…。
富田さん:やがて明治維新の10年前にあたる1858年、念願の初めての蒸気船が長崎に到着します。
マスター:う~ん。
富田さん:
この年にオープンしたのが、西洋式の船乗りの訓練所にあたる御船手稽古所(おふなてけいこしょ)。
やがてこれが発展して、2015年、世界遺産に登録された「三重津海軍所」になるんです。
マスター:あ~。
富田さん:
どうしても蒸気船が欲しいというこの直正公の熱い意志が、藩主自ら直接オランダ人と交渉する行為につながり、一方で藩士たちにも強い対応を求める明確な指示になったんですね。
やがて、こうした蒸気船を中核として海軍を新しくつくって、三重津海軍所の整備や、初めての実用蒸気船の建造の成功まで発展していったんです。
マスター:う~ん。
富田さん:マスターも、強い意志を持って、ぶつかって行かなきゃですよね。
マスター:
時にはゴリ押しかぁ。いやぁ、富田さんのお話と直正公の名言で、何だか勇気が湧いてきましたよ。
明日にでも、思い切って彼女にLINEしてみます!
あ、今、ケータイの待ち受けにしているんですよ。ふふっ、どうですか?これ彼女。
富田さん:あっあっ。ご、ごり、ご、ゴリ押ししてみたらどうですか。じゃ、マスターご馳走様!!
マスター:
う~ん、富田さんも言葉を失うほどの美人だもんな~。ははははは。
「押し返し候ても相願い候よう」・・・か。頑張るぞ!