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維新の「志」コンテンツコレクション

シーズン2 第6回 ロシア船も畏縮致し居り候

2017年2月15日放送

 

富田さん:こんばんは。マスター。いま、お店の前で、泣きながら走って行く男性とすれ違いましたけど・・・どなたですか?

マスター:ああ…いえね、最近、例の彼女とのデートが忙しくて、バイトでも雇おうかと思ったんですが、これが、中々要領の悪いヤツでしてねぇ・・・。

富田さん:
う~ん、マスターは昭和の頑固オヤジが蝶ネクタイをつけてるような人だから、怒鳴りたくなる気持ちも分かりますけど、やっぱり部下との信頼関係は重要ですよ。

マスター:分かっちゃいるんですが・・・お恥ずかしい。

富田さん:
じゃぁ、そんなマスターに、きょうも幕末・日本のSAGAを代表する人物、10代佐賀藩主・鍋島直正公の残した言葉を紹介しましょう。

マスター:待っていました、お願いいたします。

富田さん:「ロシア船も畏縮致し居り候」

マスター:ん?ロシア人も怖がるぐらい怒れ!ってことですか?

富田さん:いえいえ、この言葉、直正公の「リーダーとしての優れた資質」のお話です。

マスター:ほう。

富田さん:時は、明治維新の15年前にあたる1853年。この年号は、歴史の教科書で必ず登場します。誰かが日本の扉をノックしに来た年です。

マスター:ああ、「黒船」ですね。

富田さん:そうです!あのペリーです。ご存じのように佐賀藩は、長崎港の警備を任されていました。

マスター:うん。

富田さん:
ペリーが来航したのは江戸湾の浦賀という場所ですから、長崎とは関係なさそうに思われがちなんですけれども、実は鎖国していた当時、欧米の船を受け入れる正式な窓口は、唯一長崎だけという決まりでしたから、幕府がアメリカ船に対して、浦賀から長崎に廻って下さいと伝える可能性があったんです。

マスター:そうですよねぇ。

富田さん:
そのため、ペリーの浦賀来航の速報を受けた直正公は、すぐに長崎の港に警備態勢をしくよう指示を出しています。結果的にペリーは長崎には来なかったんですけれども、その翌月に開国を求めて長崎に来航したのがロシアの船。長崎の海は再び厳戒態勢となります。

マスター:ほう。

富田さん:この時長崎港内の島々には佐賀藩が独自に築造した砲台がありましたから、長崎に停泊するロシアにとっても緊張した状況が続いたんです。

マスター:う~ん、藩主としても、一人の男としても大変な現場だったんですね。

富田さん:
そうなんですよ。その直正公が佐賀城を出発したのがこの年末、12月27日。
長崎に到着した直正公は、まず幕府のお役人と面談します。そこで直正公はお役人から「佐賀藩が築いた砲台によって、ロシア船が緊張しているらしいぞ」と、お褒めの言葉に預かります。そして翌日、警備の現場の視察に出た直正公は、警備主任の藩士を呼び出して直々にこう伝えます。

マスター:ほう?

富田さん:
「私がきのう面談したお役人様の話によると、ロシア船も畏縮致し居り候。そのことをお役人様もお褒めになっておられたぞ。よいかおぬし。今からすぐに砲台へと赴いて、島々で警備にあたっている現場の藩士たちにこの話をいち早く伝達せよ」

マスター:なるほど、あの言葉はそんな状況の中で、だったんですねぇ。

富田さん:
しかも、この数日前に直正公は、武士はもちろん、それよりも身分の低い、船の漕ぎ手たちまで、身分に関わらず現場の全員を対象にお酒を特別にふるまっています。

マスター:へぇ~。

富田さん:
真冬の島々はとにかく寒い。お酒とお褒めの言葉を一部の人間たちだけで共有せずに、全員で共有してモチベーションアップを図る。これが直正流の人心掌握術なんですね。

マスター:いやぁ素晴らしい。だって、直正公的には、あまり好ましい状況ではなかったんですよね?

富田さん:
実はそのとおりなんです。長崎港の警備は、お隣りの福岡藩と我が佐賀藩と一年交代の任務でした。非番の年には原則、現地への出張なしなんですけれども、この時は、非番の年にもかかわらず、年に2回も出張しています。

マスター:う~ん、今でいう会社の本社のような、江戸城からの命令は絶対でしょうから、大名稼業も大変だったんですね~。

富田さん:
そうなんですよね。お殿様とはいえ、大変な仕事です。そんなこともあって直正公は、58年の人生でたった1度だけ、この年は長崎で年越しをすることになったんです。色々と複雑な思いもあったかもしれませんが、自分のことはさておき、藩と部下、そして日本の将来を案じた直正公らしい、行動的で部下思いの言葉ですよね。

マスター:う~ん、確かに・・・。

富田さん:
マスターもこのお店が大事なら、バイトさんのモチベーションを上げて一緒に成長していくように頑張ってみてはどうですか?じゃ、ご馳走様でした。

マスター:
ありがとうございました~。「ロシア船も畏縮致し居り候」か・・・。ゆとり世代のバイト君にも分かりやすく言うなら・・・、そうだ!
「一緒にピロシキを食べてみないか?」うん、これだな。