シーズン2 第9回 領中の者は皆、子の如し
2017年3月8日放送
富田さん:
こんばんは~。マスター。
(たくさんの子犬の鳴き声)うわ!どうしたんですか?かわいいワンちゃんがこんなにいっぱいで…。
マスター:あっはははは、いやぁ、近所でたくさん生まれまして・・・。つい引き取ってしまったんですよ。
富田さん:マスターって、意外に博愛主義者なんですね。
マスター:いえいえいえ…(苦笑)ところが困ったことに、例の彼女がイヌが大の苦手だそうで・・・。
富田さん:(心の声)「犬猿の仲」って、本当にあるんだ…。
マスター:それで、どうやったら彼女を説得できますかね?
富田さん:
うーん、地域に住む犬や猫も、立派な「隣人」「パートナー」ですからね~。
そうだ!そんな彼女さんには、きょうも幕末・日本のSAGAを代表する人物、10代佐賀藩主・鍋島直正公の残した言葉を紹介しましょう。
マスター:お、待ってました、お願いいたします。
富田さん:「領中の者は皆、子の如し」
マスター:きょうは私でも理解できそうですね。
富田さん:これは、直正公18歳の時、藩主就任2年目のお話です。
マスター:はい。
富田さん:
ある罪人への死刑執行が行われる前の日、直正公は側近にこう漏らします。
「明日のことだが、罪人とは申しながら、死刑に処せられることはやはり不憫である。結局のところは、私の政治が行き届いていないことが原因で、治安も悪く、罪人も出てしまうのである。そこで明日、私はいつも口にしているようなお酒や、魚・肉などを食べるのは忍びないので一日精進したいと思う。なぜなら私は『藩内の者は皆、子の如く』思っているからである」
マスター:はぁ。
富田さん:
こういう考え方は、直正公が藩主になる前から学んでいた、中国の儒教の教えの影響によるものと思われます。しかし直正公は、学んだことを単なる知識の世界やスローガンで終わらせずに、現実の目の前にいる佐賀の人々の暮らしの向上のために、学びを適応してるんですね。これが、名君たる所以の一つです。
マスター:ですねぇ・・・。
富田さん:さらにまた同じ頃、藩内の貧困問題が深刻化します。
マスター:うん。
富田さん:
農業が盛んになることが何よりも藩の基盤を支えることにつながると考えていた直正公は、生活困窮者約2000世帯ほどを対象に、藩主自らの生活費を切り崩して、応急的に支援金を出したんです。
マスター:素晴らしい取り組みですね。
富田さん:ところが後日、鹿島近くの村々を統括する代官が、支援金の対象となる96世帯を見落としていたことが発覚します。
マスター:ほぅ・・・。
富田さん:
この時直正公は、「そもそも代官という役職は担当する村々の様子をよくよく気を付けて地域の人たちの生活ぶりを普段から心得ておかねばならぬところ。こんな程度の仕事ぶりということは、常日頃の心懸けが薄いからだろう」といって、激しく怒っているんですね。
マスター:う~ん・・・。
富田さん:さて、直正公が西洋医学をいち早く導入したことは有名ですよね。
マスター:ええ。
富田さん:
特に種痘という、天然痘の予防接種を広めたことはその代表的な業績です。佐賀の民たちにも、くまなく実施するため、医者の研修もやって、医者を藩内の各地区に派遣して広めるという事業も、藩の費用で実現してます。マスター、あの貢姫(みつひめ)さんって覚えていますか?
マスター:あぁ~、あのかわいがっておられた長女の方ですよね。
富田さん:
そうです、直正公が「種痘をもう1度だけでいいから、是非接種してくれ」と懇願していた手紙がありましたよね。
マスター:ええ。
富田さん:
種痘をキーワードに見てみれば、かわいい我が娘に漏らした親心と、領民たちを救いたいという藩主としての気持ちは同じなんです。なぜなら直正公にとって「領中の者は皆、子の如し」なんですからね。
マスター:う~ん。
富田さん:彼女さんには「ヒトも動物も植物も、生きとし生けるものすべて同じ」と諭してみてはどうですか?じゃあ、ご馳走様でした。
マスター:
ありがとうございました~。「領中の者は皆、子の如し」。よし、この言葉を彼女に伝えてみよう。それにしても、何で彼女は犬が苦手なんだろうなぁ。「犬猿の仲」でもあるまいし・・・。