シーズン3 第10回 直正公の兄「鍋島茂真(なべしま・しげまさ)」後編
2017年9月13日放送
富田さん:こんばんは~、マスター。
マスター:あぁ、富田さん。いらっしゃい。
富田さん:そういえばマスター、先週の「いかしゅうまい」の件、どうなりました?
マスター:あぁ、ハハハ。結局、兄貴が半分以上を食べてしまって、またケンカになりましたよ。
富田さん:(心の声)2個しかないものを、どうしてケンカになるんだ?
マスター:
あぁ、それより富田さん、先週の続きをお願いしますよ。養子に出されていた直正公の兄・茂真が、藩政の重要なポストに抜擢されたんでしたよね。
富田さん:
えぇ、茂真は、重臣になったからといって、その地位にあぐらをかくような人物ではありませんでした。茂真が養子に入った須古鍋島家の屋敷は現在の県庁のお隣、県立図書館の辺りにあったんですが、茂真の佐賀城への出勤時間は朝6時。退勤後には、藩校の弘道館に顔を出して、他の若手たちと分け隔てなく、一緒に机を並べて勉強に励みます。
マスター:おお~。
富田さん:
時には若手と議論を重ねてそのまま徹夜。翌朝6時に弘道館からまっすぐ佐賀城に出勤することさえあったと言われています。
マスター:すごいバイタリティですね。
富田さん:
そうですね。また通例、重臣というのは、夜中に誰かが自宅を訪ねてきても面会しないことが多かったと言われる中で、茂真はどんな深夜であってもすぐに対応して小さい部屋に招き入れ、立場の違いを越えて近い距離で何でも聞き届けて議論をしたと言われているんです。
マスター:私もそんな素晴らしい兄が欲しかったですね。
富田さん:
うう~ん。ところでマスター、直正公が藩主に就任して間もなく、重臣たちとの関係構築に悩んでいた時、師匠である古賀穀堂先生から「3つの病」に喩えたアドバイスを受けたことがありましたよね?
マスター:ええ、ええ。
富田さん:
その後、直正公は、重臣たちのそっけない風潮を変えるため「お互いに腹を割って議論し合っていこう!」という方向性を打ち出します。そんな中、兄・茂真は、若手と机を並べて、時には徹夜。夜中の訪問にも柔軟に対応して、まさに直正公の目指すベクトルを、トップとして率先して実践していたんですね。
マスター:なるほど。
富田さん:
ベテランの役人たちからは、トップとして常識破りだとか色々小言を言われることもあったようですが、その信念と持ち前の豪快さで、ぐいぐい藩政を引っ張っていったんです。
マスター:真面目で頼りになる人物だったんですね。
富田さん:
そうなんです。ただ、中にはユニークなエピソードもあるんです。茂真は藩の機密事項を直正公とマンツーマンで協議することも少なくありませんでした。その協議内容が分かる茂真直筆のメモ帳が残されています。
マスター:ほぅ。
富田さん:
ある時、長崎に砲台を築造するため幕府から借りた5万両という大金をどうやって返済しようかと、2人きりで話したことがありました。そして「利息無しでも10年や20年で返済するのは到底難しいから、300年以上かけて返済させてもらえるよう、関係筋から幕府に頼み込もうか」という話になったそうです。
マスター:へぇ~。
富田さん:
結果的に台場を築造したことが幕府のお褒めに預かって「返済不要」というありがたいお達しを受け、一件落着したんですけれども、こういうことを2人きりで真面目に議論していることが興味深いですよね。
マスター:ですね~。
富田さん:
もしも、この時「300年ローン」を組んでいたら、来年が明治維新150年ですから、まだ半分くらいしか返済できていないことになりますよね。
マスター:ハハハ。
富田さん:
あまりに真面目な二人だったこと、そして血を分けた兄弟であったからこそ、こんな議論を交わすことができたんでしょうね。
マスター:うう~ん。
富田さん:
マスターも大切なお兄さんなんですから、食べ物のことで目くじらなんか立てず、どうか仲良くしてくださいね。これ、この前唐津に調査に行った時のお土産です。じゃあ、ご馳走様でした。
マスター:
ありがとうございました。おぉ、これは大好物の「松浦漬け」じゃないですか。あぁ、でも兄貴も大好きだから、兄弟で、“吠え~る”ことになりそうですよ。