シーズン3 第13回 直正公の愛娘「貢姫(みつひめ)」後編
2017年10月4日放送
富田さん:こんばんは~、マスター。
マスター:やぁ、富田さん。いらっしゃい。
富田さん:ん!?メールのチェックですか?
マスター:いえね、兄貴が「娘からLINEの返事がない」って、愚痴ですよ。
富田さん:まぁ「便りがないのは何とやら」と言いますから、大丈夫じゃないんですか?
マスター:そういえば、先週伺った、直正公と愛娘・貢姫さんとの手紙のやりとり、その後、どうなったんですか?
富田さん:
えぇ、23歳にして、結婚相手の川越藩主・松平直侯公を亡くした貢姫さん。やがて、ご主人の国元の川越に引っ越すことになります。
マスター:あの埼玉の川越のことですよね?
富田さん:
えぇ、そうです。すぐに佐賀藩邸にお里帰りできた江戸から、旦那方の実家に移動するのですから、それは心細かったでしょうね。
マスター:う~ん。
富田さん:
この頃の直正公からの手紙の一節です。「川越にては如何御暮しの御事や」、「川越は佐賀などとは違い、江戸近くにて候ゆえ、何事も面白き事ばかり。必ず必ず川越を、いやなどとは申され間敷く候」
マスター:ほぅ。
富田さん:寂しい貢姫さんを気遣って、この時期は手紙を出すペースもアップ。月に2通ほど送っています。
マスター:親心ですね~。
富田さん:
手紙には直正公の佐賀での近況報告も記されていまして「昨日も夕方より神野(こうの)へ参り、大いに養生になり申し候。神野の、菊・もみじ、少々ながら遣し申し候」。佐賀城郊外に造営した別荘・神野御茶屋に出かけ、そのお庭に色づく紅葉や菊を押し花にして手紙に添えて送っているんですね。
マスター:へぇ~。
富田さん:
佐賀の押し花を送ることで、離れて暮らす貢姫さんとも佐賀での楽しみを共有したかったんですよね。アウトドア派で植物好きな直正公らしいコメントです。
マスター:貢姫さんへの愛情が手紙から溢れ出ていますね~。その他にも面白いやりとりはあったんですか?
富田さん:
はい、手紙の中に「蛇除(よ)け」というワードが、ちょいちょい出てくるんです。例えば「蛇除け遣し、よろこび存じ候。どうぞこの度のは、よく効き候ように」とか。貢姫さんが、江戸や川越から「蛇除け」というのを直正公にしばしば送っていて、それをもらって嬉しいです、という返事なんですね。どうもこれ、蛇に効果のある忌避剤というより、蛇が出ませんようにという、お守りみたいなものだったようなんです。
マスター:ということは、もしや直正公は…。
富田さん:
えぇ、実は直正公は、蛇が大の苦手だったんです。佐賀城の本丸と三の丸の間を行き来するためには、正門にあたる鯱の門を通るよりも、天守台脇の小さな門を使うのが近くて便利。でも抜け道的なところですから、ちょっと草むらがあります。そんな時、決まって蛇を追い払う「蛇追い役」が3人ほど、直正公よりも先を進むんです。それでも蛇と遭遇すると、36万石のお大名さまも、顔面蒼白。「蛇除け送ってください」とか「送ってくれてありがとう」とか「今回のは、どうか効きますように」とか。これ、娘さんとのやりとりですよ。
マスター:
天真爛漫でちょっと茶目っ気も感じられますね~。直正公が、素の自分を見せることができたんじゃないでしょうか。
富田さん:
たぶん直正公にとって貢姫さんというのは、一番何でも言える女性だったんじゃないかと思います。ところで、手紙の中で出てきた神野御茶屋は、大正12年、当時の佐賀市と神野村が合併した時に、鍋島家から市に寄贈されて、神野公園になりました。春は桜の名所としても有名ですが、直正公も紅葉を楽しんでいたように、今年の秋は神野公園でのんびりするひとときもいいかもしれませんね。じゃ、マスターご馳走様でした。
マスター:
ありがとうございました。神野公園で、お散歩かぁ。親子の仲も深まるかも知れませんね。兄貴に教えてあげようっと。